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アズキ(小豆Vigna angularis)実験③土壌量による生育変化/植物は大きな鉢で早く大きく育つ

まず概要☞

大きさの異なるポッドにアズキを移植し9週間栽培した結果、最も大きいポッドで栽培した個体において最も草丈が大きくなり多くの実をつけ成長が盛んだった。

そもそもの背景

一般に園芸において鉢植えよりも地植えの方がよく育つされている。 また盆栽では樹齢数十年の松などの樹木が鉢に収まるサイズで成長している。 このことから植物の成長と生育土壌の大きさには関係があると考えられる。 しかし上述の例では多くの場合の成長についてのものであり、一年草のアズキに関しては情報が皆無だった。 そこで今回異なる土壌量の栽培ポッドを用いてアズキを栽培しその成長の比較を行った。

このことが何か役に立つの?

作物を土耕ではなく屋内栽培する場合、その必要土壌量の指針として活用が期待できる。 土壌はそもそも消耗品のため定期的な更新が必要である。 しかし更新の実施には手間と費用が掛かる。 必要十分な土壌量の決定はこうした手間の削減に有用であると考えられる。

実験方法

栽培

市販培養土にアズキを播種し発芽させ1か月間生育させた後、大きさの異なる小(150 mL)、中(220 mL)、大(350 mL)3つのサイズのポッドに移植した。その後9週間、互いに隣接させた状態で屋外に設置し、適宜水道水を与えて栽培した。

成長測定

成長比較のため以下の観察を行った。

結果

栽培9週間における成長の差

発芽後1か月のアズキを小、中、大サイズのポッドにそれぞれ7個体、6個体、6個体ずつ移植して9週間栽培した。栽培期間中、小ポッドではポッド内部の土壌の乾燥が特に早かった。また大ポッドの内、栽培4週間目と7週目に1個体ずつ枯死した。また中ポッドと大ポッドでは3週目以降に高温、大雨、ハダニ発生などで一時的に調子を崩すことがあった。【図1】

栽培前ポッド移植直後 栽培後7週間経過後

図1.異なる大きさのポッドで生育したアズキの形態変化
左の写真;移植直後のアズキ、右の写真;移植後6週間経過したアズキ。各写真のポッドのサイズは左から小(150 mL)、中(220 mL)、大(350 mL)となる。

栽培9週間における草丈の差

栽培開始時、各ポッドの草丈は小:30 cm、中:31 cm、大:26 cmだった。中・大ポッドでは栽培2週間後には草丈35 cmを超えたが小ポッドでは33 cmにとどまった。栽培期間中最大の草丈は大ポッド栽培6週目の39 cmとなった。また栽培8週目から栽培開始時の草丈の変化量は小:8.2 cm、中:3.6 cm、大:11.7 cmとなった。小ポッドでの草丈は中・大と比較して栽培2週目までは小さかったが、栽培7週目時点では大ポッドと同等の大きさとなった。【図2】

草丈の変化

図2.異なる大きさのポッドで生育したアズキの草丈変化
小、中、大のポッドにて栽培0から9週間後のアズキの平均草丈。エラーバーは標準誤差を示す。

栽培9週間における葉数の差

アズキは出芽に際し、下胚軸はほとんど伸びず、上胚軸が伸張して地上に現れ、子葉は地中に留まるタイプ(hypogeal)であり、初生葉(本葉とは形の異なる出芽時特有の1対の単葉)を展開した後に本葉を出す(1)植物であり今回の栽培でもその発芽形態を確認した。栽培中、初生葉を含めて葉の色に関わらず植物の展開した葉の数を測定し栽培ポッドサイズによる葉の数を比較した。各栽培期間における葉の枚数は栽培ポッドサイズの違いによる有意な差はなかった。大ポッド栽培6週目に成長不良の1個体がほとんど葉を落としたため葉の平均枚数は19枚と6週目の25枚から6枚減った。そして7週目時点ではその個体が枯死しため葉の平均枚数が26枚に回復した。【図3】

葉数の変化

図3.異なる大きさのポッドで生育したアズキの葉の枚数の変化
小、中、大のポッドにて栽培0から9週間後のアズキの平均葉の数。色に関わらず展開した葉の枚数を比較した。エラーバーは標準誤差を示す。

栽培9週間における花と実の数の差

アズキ花ポッドに移植後2週間(播種後1か月半)に黄色く丸まった花(蝶形花)が咲いた。花は主茎の上部にまとまって形成された。花が咲く付近には蕾も形成されていた。この花は途中で花弁が散ることなく開花後1週間ほどで付け根から落ちた。今回、成長度確認のため、展開した花の数を測定し栽培ポッドサイズによる花の数を比較した。

小ポッドでは移植2週間後に個体あたり0.14個の花が咲いたがその後4週と6週後には展開した花が観察されなかった。中ポッドでは移植4週後以降に個体あたり0.5個の花が観察され、7週後には0.66個と最大になった。大ポッドでは移植2週間後に個体あたり0.33個と小ポッドよりも多くの花が観察された。その後4、6週後において0.4個が観察され7週後には2.5個と小ポッドと中ポッドと比較してそれぞれ約5倍と4倍の数の花をつけた。【表1】

アズキ実古アズキ実アズキ実新花は開花後1週間ほどで萎れだし、その中で受粉したものは花の付け根となる子房が伸長し豆鞘となった。この豆鞘は当初緑色で細いが日を経過するごとに太く長くなり3週間後ほどで茶色く固く変化した。褐変した豆鞘を剝くと中には赤紫色のアズキ種子があった。今回、成長度確認のため、その色に関わらず植物体に形成された豆鞘の数を測定し栽培ポッドサイズによる豆鞘の数を比較した。

小ポッドでは中・大ポッドと異なり6週目まで豆鞘の形成がなかった。その後7週目には個体あたり0.71個の豆鞘が形成された。中ポッドでは栽培4、6、7週後に個体あたり0.66個の豆鞘が形成された。大ポッドでは栽培4週後に個体あたり1.0個の豆鞘が形成され、栽培6、7週後には1.4個、1.5個が形成された。栽培7週後の大ポッドは小・中ポッドの2倍以上となった。【表2】**追記**栽培9週目では大ポッド栽培において個体あたり5個の鞘が形成され、小ポッド栽培と比較して3倍以上多くなった。

表1. 1個体あたりの平均花数
栽培期間小ポッド中ポッド大ポッド
0週目000
1週目000
2週目0.1400.33
4週目00.50.4
6週目00.50.4
7週目0.570.662.5
9週目0.710.160.25
表2. 1個体あたりの平均豆鞘数
栽培期間小ポッド中ポッド大ポッド
0週目000
1週目000
2週目000
4週目00.661.0
6週目00.661.4
7週目0.710.661.5
9週目1.280.835.0

結果全体

上記の結果から最も大きいポッドに移植したアズキは他の小さいなポッドに移植した個体と比較して、 早期に草丈が増加し、花と実をつけて成長が促進されていた。 一方で最も小さいポッドに移植した個体においても最終的な草丈の高さは大ポッドのものと同等となり、 そして他ポッドから2週間遅れたものの栽培7週目には果実も生じた。

結果から考えたこと

草丈において大ポッド移植個体の小ポッドよりも早期の栽培2週間後に35 cmを超え、その後37 cm前後にて伸長しなくった。 一方で小ポッド移植個体で栽培2週間後時点では35 cmに満たなかったがその後も伸長し、 7週間後時点では37 cm前後と大ポッドと同等になった。 また豆鞘においても小ポッドでは栽培6週後までなかったが7週後には形成された。 このことから栽培時利用するポッドの大きさに関わらずアズキの最終的な成長量は同等となるが、栽培早期に成長速度は大ポッドの利用によって促進される可能性が示唆された。

植物の根は呼吸によって土壌中の酸素を消費し酸素不足となった土壌では根腐れが発生する(3)。鉢植えの場合地植えと比較して、根が伸長可能な空間に制限があるため土壌中の酸素不足が発生しやすいと考えれる。そして今回の栽培において、ポッドの大きさに伴って根の伸長可能な空間も変化したため、小さいポッドではより酸素不足によるストレスにさらされた可能性が示唆された。

そして酸素不足によるストレスの他、ポッドが小さく土壌量が小さいことで外環境による温度変化のストレス、水分保持量に限りがあるため乾燥ストレス、養分不足によるストレスが生じる可能性がある。 実際に夏場の栽培中、小ポッドにおいては他よりも土壌の乾燥が早く萎れやすい傾向も見られた。 一方で土壌養分量の問題に関して、アズキを含むマメ科植物は根粒菌と共生する窒素固定植物(4)であり痩せた土地でも生育可能なことが知られている。 そのため今回のアズキ栽培においてはポッドの大きさの違いによる栄養量の差は大きな影響を及ぼさなかった可能性がある。 このことから本実験の小ポッドで栽培したアズキでは土壌量が小さい故に根組織において酸素不足、高温、乾燥のストレスが生じており、これらストレスによって成長が阻害されていた可能性が示唆された。

また植物はストレス受容によって適切なフォールディング(折り畳み)が行われなかったタンパク質が増加することが知られており、 上述した栽培ポッドが小さいことでストレスが増加した場合、こうした異常タンパク質が増加する。 植物の異常タンパク質への対策として、先行研究では小胞体ストレス応答機構(UPR)の関与が報告されている(5)。 URPとは小胞体が過剰な変性タンパク質の蓄積をストレスの一種と認知し、その程度に応じてタンパク質加工プロセスを強化させる遺伝子発現制御経路であり、 シロイヌナズナにおいてこの機構制御に関わる遺伝子の二重変異体bz17/28ではその野生型よりも草丈が小さくなることが報告されており異常タンパク質の存在によって成長阻害が生じることが示されている。 このことから今回小ポッドで栽培したアズキは酸欠、乾燥や熱の直接的ストレスの加えてそれらストレスから生じた異常タンパク質もストレスとして成長速度の差に関与していた可能性がある。

ここまで小ポッドではストレスが多く成長が阻害されてたとしてきたが現状憶測にすぎない。 実際の検証としては、土壌温度の測定、光合成速度の比較や活性酸素種量の比較など、定量的データが必要であることも記しておく。

ハダニ表

ハダニ裏

また中ポッドは最終的に最も成長が劣っていた。 この原因としては3つの栽培処理区において中ポッドで最もハダニの被害が大きかったためである。 ハダニは栽培3週間目辺りで発生し、4週目にて殺虫したがその後も被害を受けた葉の緑色は戻らず光合成などの生理機構に最後まで影響が及んだと考えられる。 このためハダニ被害が無ければ成長速度は小ポッド<中ポッド<大ポッドのようにポッドサイズに従った段階的なものになると予想している。(再検証の予定なし)

参考

  1. 豆の出芽、公益財団法人日本豆類協会 https://www.mame.or.jp/
  2. 植物生理学 第2版、三村ら、化学同人(2019)、p144
  3. 植物が育つ土づくり、住友化学園芸 Webサイト、https://www.sc-engei.co.jp/
  4. 植物生理学 第2版、三村ら、化学同人(2019)、p216
  5. 植物の根の伸長を支えるストレス応答機構-根の伸長に寄与する新しい経路の発見-、Kimら *原文未読*、東京大学大学院農学生命科学研究科 研究成果  https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2018/20180206-1.html

データ

栽培データはこちら(odsファイル)をクリックで入手可能です。興味があればどうぞ~

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追記編集2021年9月15日 9週目のデータを図表に追加、本文一部変更
初回編集2021年9月5日