ホーム>>栽培>>小豆>>Here

アズキ(小豆Vigna angularis)実験④水耕栽培における市販培養液の最適濃度/ほどよい肥料と最大の成長

まず概要☞

アズキ水耕栽培においてハイポネックス®液肥を処理する場合、2000倍希釈での処理が最適である。

そもそもの背景

ハイポネックス濃度表

C、H、O、N、P、K、S、Ca、Mg、Cl、B、Fe、Mn、Cu、Zn、Ni、Moの17種の元素は植物の生育に必須の元素とされている。 K、P、Nの3元素は特に重要であり、市販の肥料はこの3元素を中心に各種成分を添加したものを販売している。 植物は肥料を与えることで成長が増加するが、過剰に与えた場合はむしろ成長を阻害することもある。 そのため肥料の製品によってはメーカーが推奨する施肥量を提示していることもある。(例 左図:ハイポネックス®液体肥料原液 商品説明) 今回はアズキ幼苗の水耕栽培に最も効果的なハイポネックス濃度処理濃度を検証する。 商品説明より、2000倍希釈付近で生育が促進されると想定する。

このことが何か役に立つの?

適切な施肥量を確認することで肥料に費やすコストを削減しながら最大となる収量を決定することができる。 またアズキとハイポネックス施肥に関するインターネット上の知見は少なく、検証実施は今後の指針となりうる。

実験方法

栽培

水道水と水道水でハイポネックス®液体肥料原液を400倍、800倍、1600倍、3200倍に希釈した培養液500 mLを容器にそそぎ、各溶液に発芽後2週間のアズキ4個体をその根が浸かるように設置した。 また各培養液にポンプで空気を送り常時水面を揺らした。 処理開始2週間後に各培養液を新規のものに交換した。 その後2週間(処理開始4週間)まで栽培した。

成長測定

成長指標として以下の観察を行った。

結果

異なる濃度の培養液を4週間処理したアズキの生育状況

発芽2週間後のアズキ4個体を用いて水道水、3200倍希釈、1600倍希釈、800倍希釈、400倍希釈の培養液で4週間水耕栽培した。 処理開始時から2週間後まで各処理区を比較して目立った生育の差はなかった。 処理後3週間で800倍希釈処理区にて1個体が枯死した。 処理4週間後においても各処理区により草丈の差はみられなかった。一方で、800倍希釈、400倍希釈液処理区ではほかの処理区よりも葉の枚数が減少していた。【図1】

A.0day B.2week
C.4week

図1.培養液を処理したアズキ
A. : 処理0日目、B. : 処理2週間後、C. : 処理4週間後でありB.とC.では左のポッドから順に水道水、3200倍希釈、1600倍希釈、800倍希釈、400倍希釈の培養液が処理した。

処理4週間後のアズキにおいて第一葉の葉を比較した。【図2】葉は先のとがった円形であり培養液による形の違いはなかった。 一方で、葉の緑色に関しては800倍希釈、400倍希釈培養液処理区にて黄化傾向の葉が見られた。

14day colour

図2.4週間培養液を処理したアズキの第一葉
図中の列は左からそれぞれ水道水、3200倍希釈、1600倍希釈、800倍希釈、400倍希釈培養液処理区を示す。下部にスケールバーとして5cmを表記する。

処理4週間後のアズキ草丈に関して、各培養液いずれにおいても草丈13.5 ~ 15.0 cmとなり成長量に差はなかった。【図3 A】

処理4週間後のアズキ本葉の枚数に関して、コントロールである水道水処理区では葉は平均5.25枚であったが3200倍希釈処理区では5.75枚と増加傾向を示した。一方で1600倍希釈、800倍希釈、400倍希釈の培養液処理区の葉はそれぞれ4.5枚、4枚、3枚とコントロールよりも減少しており、3200倍希釈を起点として培養液濃度上昇に伴って葉枚数が減少する傾向の結果となった。【図3 B】

処理4週間後のアズキ第一葉に関して、水道水、3200倍希釈、1600倍希釈、800倍希釈、400倍希釈の培養液処理区それぞれの第一葉の大きさは7.9 ㎠、9.3 ㎠、10.6 ㎠、10.1 ㎠、8.1 ㎠であり、1600倍希釈処理区が最も葉が大きくなった。そして1600倍希釈液よりも濃度低下あるいは増加するにしたがって葉は小さくなる傾向となった。【図2, 3 C】

処理4週間後のアズキ第一葉の緑色保持に関して、3200倍希釈と1600倍希釈処理区では濃度上昇に伴って水道水処理区よりも緑色となる傾向となった。一方で800倍希釈処理区では水道水処理と同程度となり、400倍希釈処理区では水道水より緑色が約30%低下した。【図2,3 D】

A.height B.number
C.size D.green

図3.4週間培養液を処理したアズキの成長量
A. : 草丈、B. : 葉の枚数、C. : 第一葉の大きさ、D. : 第一葉の緑色(緑色平均輝度)
図中グラフは左から水道水、3200倍希釈、1600倍希釈、800倍希釈、400倍希釈培養液処理区の成長量を示す。エラーバーは標準誤差を示す。

各成長量の相関関係の検証

今回の栽培では草丈、葉の数、第一葉の大きさ、第一葉の緑色度を成長の基準として測定した。この内、草丈では処理区よる違いはなかったが、葉の数、第一葉の大きさ、第一葉の緑色度においてはそれぞれ3200倍希釈液、1600倍希釈液、1600倍希釈液を最大とする山型の成長量を示した。これら処理培養液によって変化した3種の成長量について、互いに相関関係があるのか調査した。

3種の成長量の組み合わせ(葉の面積-葉の枚数)、(葉の面積-緑色度)、(葉の枚数-緑色度)のついてプロットし相関係数を求めた。【図4】いずれの組み合わせにおいても相関係数は0.2未満と低く、各成長量間の相関は乏しいことが示された。

A.葉の面積ー葉の枚数
B.葉の面積ー緑色度
C.葉の枚数ー緑色度

図4.4週間培養液を処理したアズキの成長量
A. : 葉の面積-葉の枚数、B. : 葉の面積-緑色度、C. : 葉の枚数-緑色度
図中プロットは水道水、3200倍希釈、1600倍希釈、800倍希釈、400倍希釈培養液処理区の個体の成長量を示す。R2:相関係数

結果全体

上記の結果に示すように、成長基準(葉の数、第一葉の大きさ、第一葉の緑色度)はハイポネックス®液体肥料の3200倍希釈液あるいは1600倍希釈液を処理したとき最大となった。

結果から考えたこと

結果から3200倍希釈液と1600倍希釈液の中間として2000倍希釈液の処理がアズキ4週間の栽培において最も効果的である可能性が示唆された。 この推奨濃度はメーカーの推奨施用方法にも則している。

一般に植物は根から水分を吸収するが、その給水機構の一部は植物細胞内部と外環境との浸透圧差による拡散作用によるものである。 高濃度培養液の処理区では細胞内部と外環境間の浸透圧差が減少する浸透圧ストレスストレスにより、給水に細胞に流入する水が減少すること(1)で成長が抑制されたと考えられる。 また浸透圧ストレスに曝された植物は適合溶質を体内に蓄積することで体内の浸透圧を調整するが、高濃度培養液処理区では培養液中の過剰な無機イオンによって適用溶質合成などの代謝系が攪乱され(2)、浸透圧ストレスに対応が不十分となったと考えられる。

植物の葉は光合成により養分を生産し蒸散によって給水を維持する組織となるが、今回400倍希釈液処理区では枚数、緑色度ともにコントロールである水道水処理区と比較して30%低下した。仮に栽培期間を長期化した場合、4週間時点で個体として葉組織の機能が低下していることにより更に成長量に差が生じると推察する。

今回培養液濃度に影響を受けた成長基準(葉の数、第一葉の大きさ、第一葉の緑色度)は相関が見られなかった。このことはストレスが影響する成長段階に違いよる可能性がある。 まず第一葉の大きさは最大濃度の400倍希釈でもコントロールと同程度であり成長阻害が小さい結果となった。 もともと栽培開始時点で第一葉は形成されており、発芽から処理開始前までの栄養状態が強く影響して、処理後ストレスによる成長阻害が小さく表れている可能性がある。 また葉の数が3200倍希釈で最大であるのに対して、第一葉の緑色度は1800倍希釈で最大となった。植物は栄養素の再利用法として、下層の古い葉の生体高分子を分解して新しい葉に輸送する転流の仕組みがある(3)。今回最も葉の枚数が増加した3200倍希釈液処理区では転流に伴いクロロフィル等の高分子が分解されることで1600希釈液処理区よりも緑色度が低下した可能性がある。

全体的な栽培の印象としていずれの処理区も貧弱に徒長した形態を示し、生育時の光不足の可能性もある。次回異なる光源を用いて生育を比較する予定である。

参考

  1. 植物生理学 第2版、三村ら、化学同人(2019)、p39
  2. 植物栄養学 第2版、間藤ら、文栄堂出版(2016)、p213
  3. 窒素転流、光合成辞典、 https://photosyn.jp/pwiki/?%E7%AA%92%E7%B4%A0%E8%BB%A2%E6%B5%81

データ

栽培データはこちら(odsファイル)をクリックで入手可能です。興味があればどうぞ~

コメント

このページの内容についてご意見、ご指摘があればホーム画面の「連絡先」からお知らせください~☻;

初回編集2022年5月15日